1924年、チェコの作家、カレル・チャペックがイギリスにやってきたときのことを書いたエッセイ『イギリスだより』に「自然史博物館にて」というのがあります(筑摩書房、2010年、Kindle版。底本は第三刷)。その中でチャペックは、どんな博物館・美術館の展示品よりも、自然史博物館に展示されている貝や岩石がとても面白かったと言っています。
今日、日本から訪ねてきた友人と一緒に初めて自然史博物館 (National History Museum) に行ってきました。お隣のヴィクトリア・アンド・アルバート美術館にはちょくちょく行っていたのですが、なかなか足が向かずに1年経っていたところ、友人の強い希望で開館直後に博物館へと乗り込みました。
博物館は収集品の内容もさることながら、展示の工夫も面白くて飽きずに見続けてしまいました。まずは入ってすぐ、エレベーターの点前で恐竜の化石がお出迎え。この「まずは最初で心を掴め」の計画に見事に塡まり、友人と記念写真を撮ってエレベーターで3階へ。地殻変動や火山、地震(日本の鯰信仰や阪神淡路・東日本大震災なども紹介されていて、その視野の広さに驚く)について見たあと、階を降りながら惑星・生物の誕生を見て、最後に鉱物の階へ。ジュエリーとしてだけではなく産業の点からも様々にアプローチされていて楽しめます。
後半は館の反対側へ移り、生物の剥製や化石を見てきました。恐竜の化石コーナーは特によかったです。「恐竜は動物か?」の問いが書かれたパネルから始まり、恐竜の生態を巡る論を分かりやすく解説しながら、すぐ側に、上に(天井から吊して、透明の板で脚を支えているので、化石の真下を通ることができます)化石を見ながら順に巡っていきました。何とも充実した展示でした。
他の生物の化石も壁面にびっしりと額に入れて展示してあったり、意外と触れるものも多かったりして視覚的・触角的に楽しい博物館でした。子供も多かったです。化石を見つめる男の子が目を輝かせながらご両親と話していてほほえましかったです。
少し意地悪く見ると、「地震がないからいいよねえ」とか、「こんなに多くの化石や剥製、どうやって手に入れたんだろう」と思ってしまいますが、それはさておき、素直に楽しいと思ってもらう工夫は見習わないとなあと思いました。
それにしても、化石や鉱物はどうして人をこうも引きつけるのか。すでに絶滅してしまった生物への想像力をかきたてるのか、人の力では生み出せない(今はできますが)ものが畏敬の念を起こさせるのか。チャペックも自然の「法則と形態の創造」の神秘や正確さに心を奪われたようです。それは思わず、詩について「なんと奇態に乏しく、なんと大胆さと正確さに欠けるものだろう!」と言わしめるほど。ロンドンに来たら一度行かれることをお勧めします。