23.4.18

キャサリン妃第3子出産から人間の身体とお産について思いを巡らす

ウィリアム王子とキャサリン公爵夫人の間に第3子が生まれました。めでたい。
王位継承権は第5位、名前は何になるかはまだ発表されていません。今日は聖ジョージ(St George 聖ゲオルギウス)の日なので、慣習からいくとジョージになりますが、お兄さんがジョージなので別の名前になるらしいです。
それは本題ではなくて、私が感心するのは、キャサリン妃が赤ちゃんを抱いて病院の玄関に出てくるときの服装です。赤いワンピースにばっちり化粧、そしてヒール。しかもピンヒール!普段でも履きこなすのは難しい靴を、出産直後の、疲れているなんて言葉では形容できないであろう状態のときに、普段と変わらず履いている!第1子出産後の映像を見た時の衝撃は忘れられません。今回もそうだったことにまた驚きです。もちろん、一般人では受けられないような、産前・出産・産後ケアを受けているとは思うのですが、これを見るとヨーロッパ人女性の体力は並々ならぬものがあるな、と圧倒されてしまいます。

ヤマザキマリさんの『イタリア家族 風林火山』(ぶんか社、2010年)にはヤマザキさんが息子さんをイタリアで出産したときの話があるのですが、出産直後、身体がいかにきつかったかを描いています。お子さんを出産して数十分後、看護師さんから「そろそろあなたも病室に移動してね」と言われ、「どうやって移動するんですか?」と聞くヤマザキさんに、「もちろん歩いてじゃない!」と言ったのだそうです。それでヤマザキさんは一応起き上がろうとしたものの、まったく身体が持ち上がらず、担架で運ばれました。
「出産して数十分しかたっていないのに 立って歩いて帰れるイタリア女のスタミナに東洋女はちょっとついていけない」
「タンカで運ばれてきたのはその病室で私だけだった・・・」(p. 151)と言っています。
私の周りの日本人と中国人の友人に聞いても、誰もが「出産直後にピンヒール履いて歩けるのはすごい」「アジア人女性にはありえない。どうかしてる」(←おい)と異口同音に言います。広東出身の友人曰く、中国の女性は出産すると1ヶ月は布団から起きない慣習があったようで、それは疲れている女性に悪い気が入らないように、とにかく休ませるためだ、というのです。さすがに現代ではやっていないようですが、それでもアジア人女性にとって、出産の身体的負担は結構大きいものに変わりはありません。
もちろん、ヨーロッパ人女性のような体力をつけよう、というつもりはまったくなく、また、中国人女性のように1ヶ月布団から出ないようにしようというのでもありません。どちらも非現実的です。そうではなくて、せっかく医療も進歩してるのだから、お産が楽になるならそのような治療を受けてもよいと思いますし、それで産後が楽になるなら、なおいいんじゃないでしょうか、と思います。
私は旦那さんに以前、「私はシマウマのお母さんがよかった」と言ったことがあります。子供のシマウマは生まれてものの1、2時間で走れるようになるらしいとのこと、なんて羨ましい!と思っての発言です。お母さんシマウマもすぐ動けるようですし、日常生活にすぐ戻れるのもいいなと思います。対して人間はといえば、お母さんは回復に時間がかかるし、子供は育てるのに時間も労力もつぎ込まなければならない存在です。人間の進化はなぜこの段階で止まってしまったのか。できることなら、楽なお産ができるようになるまで頑張ってほしかった。でも、人間には労力と時間をつぎ込んで育ててきた能によって研究・開発してきた医療があるので、それで何とかならないのかな、と希望を一応持っています。一応、というのは、高額なら諦めざるを得ないからです。悲しいかな、人間社会。
ちなみに、前述の「シマウマのお母さん」発言は旦那さんに相当に驚かれました。驚きのあまり、旦那さんが発した言葉は「・・・でもシマウマはライオンに捕まって、食べられちゃうかもしれないんだよ?」がやっとでした。その後しばらく何もありませんでしたが、最近『サピエンス全史』を読んだようで、次のことを教えてくれました。人間が二足歩行を始めた結果、骨盤が小さくなり、結果産道が小さくなり、お産が大変になった、つまり進化の結果お産が難しいものになったそうです。あらら。

21.4.18

翻訳について考えさせられる商品

日本語→英語だけではなく、英語→日本語にも、ものすごい訳をつけて、しかも世の中に出回っているものがあります。一番いい例は、Superdry。おそらくイギリスに来た人なら一回は目にしたことがあるであろうイギリスのアパレルブランドですが、これには日本語訳がついています。それは、
「極度乾燥(しなさい)」。
ぜひネットで検索してみて下さい。ロゴにばっちり入っています。
写真は旦那さんが購入したダウンジャケットのジッパー。ここにもちゃんと入ってます。

初めて見たときは「何かのぱちもん?」と思ったのですが、ちゃんとしたブランドなのです。About Us のページには、「アメリカのビンテージと日本にヒントを得たグラフィックを、イギリススタイルで融合する」と書いてあります。ま、何でもありですね。
あえて弁護すると、品質は結構よいです。ユニクロと張り合えます。リージェント・ストリートを始めとしてヒースロー空港などお店も何店舗もあり、いつも人で賑わっているのを見ると、イギリスで受け入れられてるのは確かです。
ブランドの設立については、イギリス人の若者二人が東京に遊びに来て、「日本のものはかっこいい、super dryだ!」と思ったのがきっかけ、と聞いたことがあります。それをグーグル翻訳か何かに入れたのでしょう、でなければ「(しなさい)」なんて出てこないはず。このブランドのものを見てると、デザインに中国で使われている簡体字が混ざっていたり、意味不明な日本語がついていることがよくあるので(「Osaka 6」とか。大阪と6は何のつながりがあるのか?そしてなんと「会員証な」と入っている)、「よく分からないけど、なんだかかっこいい」という感覚で使っているんでしょうね。日本で見ないのは、おそらく某ビール名と同じなので使えないからではないかと思います。
ものはよい、でもロゴは意味不明・・・って日本でもありますが、面白いだけで済ませていいのだろうか、という気持ちにはさせます。
グーグル翻訳の精度も上がっている今、手軽に意味を知るには格好の機能ですが、きちんとやろうと思うと、翻訳って本当は「時間×手間×お金」という、膨大なエネルギーをかけて出来上がるものです。前職で学芸員をしていた頃、展覧会開始2ヶ月を切ろうかというところで、いきなり上司から「解説を全部英語訳つけて」と言われて頭にきたことがありました。海外からのお客さんにも来て楽しんでもらいたいという、その心意気はよいのです。が、そのための方法があまりにも安易すぎました。お金はかけたくないから日本美術に詳しいプロの翻訳家をつけることはしたくない、日本語からそのまま英語にすれば通じるはずだから、短期間でできるでしょ、というのが見え見えなのです。これではうまくいくはずもありません。
直訳でも大丈夫と思わせてしまうのは何なのか、これはやっぱり人間は育った言語環境の呪縛から永遠に自由になれない、ということなのか、と気が重くなります。笑っているだけで済むならまだいいのかもしれませんが。

9.4.18

Your cheek might drop?

「半年間に起きたこと」と書きながら、ロンドンに戻る直前の話から始まるわけですが、ご容赦を。
羽田空港の手荷物検査を通り、制限エリアに入ったときのこと。旦那さんが六厘舎でつけ麺を食べるという恒例の儀式を執り行ったあと、「お土産でも見ようか」ということになりました。歩いていると見つけたのは、東京ミルクチーズ工場なるものの看板。にっこり笑う牛さんの下に書かれていた英文にふと立ち止まる我々。

YOUR CHEEK MIGHT DROP.

私・旦那さん:「(多分、『ほっぺたが落ちるほど(おいしい)』を直訳したんだろう)」

ということを瞬時に悟った我々、その場で疑問を確かめ合います。
私:「なんで will じゃなくて might なんだろう?広告にしては控えめすぎだよね?Google翻訳でこう出てきたのかな?結構難しくない?」
旦那さん:「うん。それに cheekって普通複数で使うよね?」
私:「そうじゃない?」
旦那さん:「両方合わせて集合名詞として単数扱い、とかないよね?」
私:「さすがにないと思う」
旦那さん:「じゃあこれってさ、『片方のほっぺたがもしかすると落ちちゃうかも』ってことでしょ?」
私:「うわ、ホラーだね!」

帰国してからインターネットで検索してみたら、英語話者にはやはり通じないようで、「この表現を見て My jaw dropped. でした」というのがありました。落ちるのは jaw つまり顎です。これは驚いたときに口がぽかんと開いてしまうことを言います。ロゴを発表する前になぜ見てもらわなかったのか、それともそれを含めて狙ってやっているのか、と考えてしまいました。
でも問題はともかくとして、今でもこのフレーズとちょっととぼけた表情のある牛さんを思い浮かべると思わず笑ってしまいます。


8.4.18

日本にいた半年間のまとめ(おおざっぱに)

博士課程2年目にあたる今年1年はフィールドワークでデータを集めてくることになっています。私もそうで、昨年10月から半年ほど東京に滞在して史料集めをしてきました。本当は1年いたかったのですが諸事情により半年にせざるをえませんでした。が、よい時間だったと思います。課題は集めたものをどれだけ読みこなせるか、今回集めた史料だけで本当に足りるのか、でしょうか・・・江戸時代の史料は尋常じゃない量が残り(さすがは紙の文化、羊皮紙文化ではこうはいかない)、しかも9割は未翻刻かつ未出版なので、よく言えば発掘しがいがあり、悪く言えば見つけた者勝ち、使った者勝ちのような印象があります。中世史であれば基本的な史料論が出版されてますが、近世史にはそれがない。これはもう近世史研究者にガイドラインを提示してもらえるのを大いに期待したいところです。
史料集め以外の活動はこんな感じでした。

2017年
10月
日本到着。10月というのに夏かと思うほど暑い。とにかく暑い。と思ったら台風で一週間以上ずーっと雨。毎日雨なので気が狂いそうになる。

11月
イギリス、アメリカ、オーストラリアの陶磁器愛好家グループに通訳として付き添い、九州へ。窯場や磁土発掘場など見学。言葉が出てこなくて冷や汗たれまくりだが、何とか乗り切る。
非常勤講師の友人に誘われて、ある大学で講義。ジャポニスムについてということで急いで勉強する。「何分でもいいです」と言ってくれたけれども40分程度の授業で勘弁してもらう。うすーくしか知らないので、昔にもっと勉強しておくんだったと激しく後悔。これが60分、90分の授業だとどうなるのか、と気が遠くなる。昨今の学生はスマホでパワーポイントを撮影するらしい。何人かいたので、まあ興味を引くことは出来たのかな、と自分を慰める。
それにしても、今の非常勤講師はあまりに大変である。友人は試験問題をあらかじめ配って解答を準備させた上で、それを試験本番に持ってこさせ、解答用紙に書かせると言っていた。それって試験なの?と聞いてみたが、そうしないと単位を落とす学生が多いのだそう。高等教育とは何かを考えさせられる。

12月
発表1つ。出来は分からないけど新しい出会いもあってよかったと思う。年末にロンドンへ戻る。
新年をスコットランドはエディンバラで迎える。イングランドとはまた違う年越しで面白い。元日はエディンバラ動物圓でペンギンの行進を見て興奮。

2018年
1月
発表2つ、茶の湯関係と近世史で。分野が違うと興味はこうも違うのか、と驚く。

2月
奨学金応募書類の準備に追われる。指導教官から研究計画書のだめ出しを大いにくらう。どれくらいかというと、毎行赤が入るぐらい。内容はもちろん、イギリス英語にお厳しい方なので綴りを全て直してくれたのだが、申し訳なさの極みである。日本語だと漢字を間違っている感覚に近いかな。徐々に慣れてきたとはいえ至る所にトラップありまくりである。maneuverはmanoeuvreなんて、知らなきゃ書けるはずもない。全面書き直して何とか提出。受かりますように!!
地方へ調査に出かけて公立図書館の対応の素晴らしさに感動。皆さんすばらしいお仕事をされております。

3月
都内及び地方で調査。旦那さん来日。昨年末に私の祖父が亡くなったので納骨を行う。納骨に先だち本堂でお経を尼さんと一緒にみんなで読む(そういうものなの?)しかも10ページ以上。家族全員が戸惑ってぼそぼそと読む中、旦那さんは長年のバス経験者として朗々と読む。最後の一節だけ節回しが異なるけれども、そこもばっちりクリア。尼さんから「○○家の方は音楽の才能がおありですね」とお褒めの言葉をいただき、旦那さんはその後皆から誉められまくる。
一緒に博士課程で勉強している友人が来日、調査に通訳として同行。

4月
イギリスへ帰国。

この間、友人、知人と積もりに積もりすぎた話を共有し、自分の今後の生き方について思いを馳せました。
時差ぼけから回復しつつあるので、半年間に起きたことをもう少し書いてみようと思います。

6.4.18

マーチモント・ストリートの桜


ロンドンに戻りまして、昨日Doctoral School へ行ってチェックインをしてきました。フィールドワークから戻ったら、一週間以内にパスポートとビザを持ってチェックインせい、ということなのです。政府のビザ統制が厳しいので仕方ないのかもしれませんが、博士課程なのに遊ぶ人もそういないだろうし、厳しすぎるのではと思っています。
チェックイン自体は数分で終わったので食料品の買い出しへ。上はマーチモント・ストリートに咲いていた桜(のはず)。昨日は天気がとても良く、青空に薄いピンク色がよく映えていました。ロンドンは今が桜が満開になるころです。